キツネ迷宮

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樋口は一軒の古びたアパートに住んでいた。大学生の頃、破約の家賃の安さに即入居を決めてしまった。 アパートは二階建で、一階の三室は空き部屋となっている。一階には大塚さんという大柄な男性が住んでいて、ときどき部屋にお邪魔して、酒の飲む仲である。 樋口は四畳半の畳に横になっていた。天井には雨漏りした後が残っていて、人の顔の形に見えてしまう。 テレビからは天気予報士が、一週間の天気を報せていた。ずっと雨模様のようである。 二、三度寝返りをうち、上半身を起こす。 「なぜだ?眠れない」 時間はもう深夜の十二時を少し回った頃だ。この時間に眠くならないのは、樋口にとって大問題であった。 人は八時間以上寝なければいけない、という樋口独自のルールがある。明日は七時に起きなければいけないので、今から寝たとしても八時間以上眠れない。 樋口は起き上がり、窓辺に行った。月明かりが部屋に差し込んでいる。窓を開け、月を眺める。綺麗な丸の満月であった。
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