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しばらく夜風に当たり、眼下を眺めていると、一人の男性が一反もめんのような布を持ち上げながら走っていく姿が見えた。
「なんだあれは、百鬼夜行か?」
一反もめんだけの百鬼夜行はさぞ淋しかろう、と樋口は呟いた。
ふと時計を見ると、丑三つ時であった。そして、樋口はある噂を思い出す。
このアパート周辺にはキツネが現われて、人を幻惑の世界に取り込んでしまう。
大塚さんから聞いた噂であった。キツネと言っても動物のキツネではなく、正確には妖怪の方のキツネらしい。人に化ける能力があって、普段は人に化けているという、だから普段は気付かない。だけど、満月の夜だけは、お尻の方から尻尾が現れる。とも教わった。
「キツネ、キツネか」
樋口は動物が好きで、キツネと聞いたら動物の方しか思い浮かばなかった。
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