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夜風に当たっている内に、外へ出掛けたくなった。
樋口は財布を持ち、お気に入りの帽子を被り、外に出た。
玄関のドアを開けると、夜風が部屋の中に入ってきて、後ろの日捲り式カレンダーがバサバサを音をたてた。
外は静寂で、不気味な雰囲気が漂っている。街灯が明滅していて、数匹の蛾が、バタバタと翅をはばたかせていた。
口笛を吹きながら夜道を歩いていると、目の前に奇妙な構えをした店が見えた。
幾つもの提灯をぶら下げていて、沢山の狐面を板に貼りつけて立てている。
朱色の暖簾には占い館と書かれていて、パタパタと風でそよいでいた。
「占い?」
その店は独特な霊気が漂っている。樋口は引き寄せられるように店の入り口に向かった。
すると、不意に店の引き戸が開けられる。浴衣を着た人が目の前に立っていた。狐面を被り、顔を隠していた。
「いらっしゃい、今宵はどんなお悩みを?」
「悩み?」
「悩みです」
「悩みなんてない、俺は自由主義だからな」と樋口は莞爾と笑った。
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