キツネ迷宮

7/19
前へ
/19ページ
次へ
八雲は奥の机への方へ進み、椅子を引き、腰を掛ける。樋口を手招きした、樋口はノロノロと歩く。 「そこに座って」 と八雲は漆色のソファを指差した。ソファに座ると、目線が丁度合う、狐面を被った八雲が笑っているかのように見えた。 「まずお名前、誕生日を教えて下さい」 「樋口 大哲です、大きいに哲学の哲。誕生日は八月九日」 「赤の他人に本名と誕生日を簡単に教えるものではないですよ」 八雲はケラケラと笑った。樋口は「いや、八雲さんが教えろと」と狼狽えた。 「年齢は?」 樋口は少し躊躇って「二十三です」と言った。 「いま躊躇いました?」 「躊躇ってません」 「そうですか」と八雲はまたケラケラと笑う。狐面は全く笑っていなかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加