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八雲は奥の机への方へ進み、椅子を引き、腰を掛ける。樋口を手招きした、樋口はノロノロと歩く。
「そこに座って」
と八雲は漆色のソファを指差した。ソファに座ると、目線が丁度合う、狐面を被った八雲が笑っているかのように見えた。
「まずお名前、誕生日を教えて下さい」
「樋口 大哲です、大きいに哲学の哲。誕生日は八月九日」
「赤の他人に本名と誕生日を簡単に教えるものではないですよ」
八雲はケラケラと笑った。樋口は「いや、八雲さんが教えろと」と狼狽えた。
「年齢は?」
樋口は少し躊躇って「二十三です」と言った。
「いま躊躇いました?」
「躊躇ってません」
「そうですか」と八雲はまたケラケラと笑う。狐面は全く笑っていなかった。
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