家族の条件②

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凱の勤める病院に入院する事にした祐太郎。 靖から連絡を受けた明美が、母親と共に待ってましたとばかりに飛んできた。 痩せこけた祐太郎の姿に母娘そろって絶句したが、努めて冷静に朗らかに接する。 何かを手に持ってポケーッとしている祐太郎に、叔母が入院の支度を調えながら「それ、なに?」と優しい声音で訊ねてくる。 「こっ…こっ…これは…」 ガリガリに痩せ細った惨めな自分を見られるだけでも恥ずかしいのに、どもってしまう自分が情けなくて仕方がなくなる。 恥ずかしさに耐えられなくて、今すぐ逃げ出したい気持ちになる。 「俺が三重から、根性で持ってきたもんなんスよ~♪」 凱が、然り気無くフォローを入れる。 祐太郎が手に持っていたのは、慶太が育てて押し花にしていたノース・ポール。 一度花を咲かせても、茎の真ん中でバッサリ切ってしまうと再び花を咲かせる奇跡の花。 法の番人となる慶太が出会うことになる多くの被告人や犯罪被害者、またその家族の人たちにノース・ポールのような復活を祈念した四つ葉のクローバーにとって最も大切な花。 思いがけなかった祐太郎のピンチに、慶太はそのノース・ポールを押し花にしておいたものを祐太郎に贈りたいと凱に申し出た。 それを受けた凱が、一秒も無駄には出来ないと真夜中の東名高速を走り抜けて三重まで真っ直ぐに飛んでいって帰ってきた。 ただの、押し花。 たかが、押し花。 それでも、慶太と凱の二人の熱い真心が無ければ、今こうして祐太郎が手にする事など決して出来なかったもの。 その本当の価値は、祐太郎たちにしか判らない。 それを手にしながら、祐太郎は美佐からのプレゼントであるCDを聴いていた。 その歌詞が、その時の祐太郎にとっては優しすぎて、苦しくなってどうしても最後まで聞けなかった。 苦しくて途中で停めてしまい、なかなか最後の歌詞にまで聴けなかった。
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