家族の条件②

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ピコ…。       ピコ…。 「よぉ☆ユタ! また懺悔の時間なのか~?」 靖が持ち前の柔らかく爽やかな笑顔を祐太郎に向ける。 「ゃ…やす…し…。 こ…こんな…入院してて…、んむ…無職だし…」 「大丈夫だよ。 ユタの入ってた保険に入院補償も付いてたし。 退職金もちょっとは出たし。 鎌倉の会社の役員報酬も有るし。 それに、明美と正式に結婚したら、俺もれっきとしたユタの従兄弟になるしな! 俺と明美で、かるーく面倒みてやるぜ♪」 これが、ピコピコハンマーがピコ…ピコ…と聞こえてきた時。 逆に…。 ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ∑ピコ!!!!!! 激しいピコピコが聞こえてきた時。 「∑∑ユタッ!」 祐太郎に雑誌を買いに行ってやっていた明美が、その音を聞いて病室に駆け込んで祐太郎に抱き付く。 祐太郎が壊れたカラクリ人形のように自分の頭をピコピコハンマーで叩き続けている。 「ノンビリしろって、なんなんだよっ! そんなの治療じゃないじゃないかっ!!!」 明美が少し目を外した隙に、祐太郎の癇癪が爆発してしまっていた。 「凱くんは、もうお医者様なのよ? 凱くんを信じていれば大丈夫よ」 思い通りにならない自分に腹を立てて、目に見える回復も無く、治療らしい治療は食後や就寝前の服用薬だけ。 あとは心に余裕を持ってノンビリ過ごせと凱に言われている。 暇を持て余さないように、パズルや雑誌や小説などを凱も靖も明美も持ってきてやっている。 それでも祐太郎の癇癪は最低でも週に四回は出ていた。 むしろ、出ない日が週に二日前後と言った方が良いかもしれない。 一日に何度も癇癪を起こすことも有った。 父譲りの激しい負けん気。 母譲りの強い責任感。 諦めない瑞啓が、祐太郎に伝えた闘う悟り。 ピコピコハンマーが有ったお陰で、何度も救われた。 祐太郎が我慢できずに壁に自分の額を叩き付ける前に、何度も気付けた。 ピコピコハンマーのおかげで、祐太郎のオデコに傷が出来るのは週に一度程度に抑えられていた。
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