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祐太郎が入院をし始めて、記憶が判然としないながらも三年ほど経った頃。
一進一退の祐太郎だったが、専門医の凱ですら驚嘆する精神力を持っていた祐太郎。
祐太郎本人は自分に憤りを募らせる毎日だったが、精神科医・篠宮凱の目からしたら目覚しい回復をしていた。
肉体的な疾患とは違い、精神的な疾患は長期間の療養が必要になる。
血液がかさぶたになってくれる…とか、科学的に免疫や抗体で病原組織を攻撃する…という単純なものではない。
栄養や薬物で補って物理的に治療するのとは違って、精神病は本人がそれまで培ってきた価値観や人生観にも深く関わって意識改革や精神再構築も必要になってくる。
通常の疾病とは違って、その療養期間は当然ながら長期的なものになる。
治療期間が10年に達することなど珍しくない、とても根気の要る医療分野である。
それなのに、入院三年目で28歳になった祐太郎は常軌を逸した精神力を発揮していた。
その病院の精神病棟は重度・中度・軽度の三段階に分かれていて、鉄の扉で他区画とは隔離されていた。
入院当初は中度の個室に収容された祐太郎だったが、しばらくしたら主治医の凱に「集団生活も治療の一環になる」と言われて8人部屋に移された時期も有った。
しかし、他の患者に「今の自分たちをよく見てみろ。このままで良いのか?!」と自分も含めた全員に叱責を繰り返す祐太郎。
他の患者たちの治療に支障が出てきてしまうほどだった。
そこで、凱の苦慮を受けて、医療費はかさむが靖と明美は再び祐太郎を個室に移らせることにした。
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