家族の条件②

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一同がくつろいだ矢先に、その日も明美が陽太郎を抱っこしながらやって来た。 「あら…!皆さんお揃いで…!」 明美が一同に挨拶をしていたら、滝本が祐太郎にチラリと視線を投げてきた。 「おぃ~…。ユタ~…?」 「──さすが…、気付かれましたか…?」 周りの者たちが、そんな二人を怪訝そうに見詰めた。 滝本はしばし考えて、祐太郎が静かに黙って微笑んでいるのを見て「いゃ…なんでもねー…」と顔を背けた。 その時はそれで話は収まったが、実はこの時に祐太郎の人生の総決算につながる大きな出来事が起こっていた。 それからしばらく経った頃。 「ユタさーん! スペシャル・ドリンク作ってきましたよ~♪」 新米ナースとは言っても、薬剤師の資格も持つ恵は一気にナースステーションのホープとして頭角を顕した。 院内で行われる薬物投与などで、それまではドクターの署名や立ち会いなどが無くては準備出来なかったものも、 薬剤師ナースの恵ならドクターの処方箋一枚有れば調合から処方、投与まで一気に出来てしまうわけだから重宝がられる。 ドクターやベテランナースたちからはナースステーションの新たな宝と大歓迎され、他の病棟のナースステーションからも応援要請が来るほどだった。 逆に、歳の近い若いナースたちからは反動で嫌われまくった。 そりゃ、どうしても面白くない。 自分達がナースとして患者の近くで汗水垂らして奮闘してきた期間、大学で薬剤の勉強をしてきたお嬢様。 恵の生い立ちを知らない若手ナースたちは、恵はきっとどこかの資産家のお嬢様なんだと勝手に誤解した。 しかし、恵は何も反論しなかった。 小学生の頃に両親を亡くし、兄と共に引き取ってくれた叔母。 ド田舎の無医村に躊躇わずに走っていって、地域の医療に孤軍奮闘していた元気な叔母の跡を継ぐと心に決めている。 「今までお嬢様扱いなんてされたことなかったから、せっかくなんで楽しんでみます」 誰かをやっかむよりも、誰かにやっかまれる方がよっぽどマシ。 反論しても、相手が聞く耳を持ってくれてから言わなきゃ今度は別の理由を持ってこられる。 要は、ドクターやベテランナースたちに重宝がられる恵が気に入らないのだ。 恵は、ドクターやベテランナースたちから様々な現場の知識を与えてもらう事を選んだ。 一度肚を決めた女性は…強い…。
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