家族の条件②

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凱は凱で大変そうだったが、恵も恵で大変そうだった。 スペシャルドリンクをもらいながら、患者仲間からも恵に対する同僚たちからの嫌がらせを聞いていた祐太郎が心配して声を掛ける。 「──あの…? イロイロ聞こえちゃうんですけど…。 嫌がらせ…、大丈夫ですか…?」 すると、恵はケロリと言い返してくる。 「──今は、私の本気じゃありませんから… むしろ、私にとっては小休止ですから気楽なもんですよ…?」 「──はぁ?」 小首を傾げた祐太郎に、恵はニコッと笑ってノンビリした笑顔で返してくる。 「私の本来の目的は、無医村に派遣される医師の助手になることです。 その為に、いずれは救急救命への異動が希望です」 「──救急救命…?」 「えぇ。 主要な内科や外科とか、エリートとか言われる脳外科とか関係無く。 地域医療には、よりオールマイティーが求められます。 無医村などでは、やっと来た医師に対する期待は計り知れないものなんです。 産婦人科とか耳鼻咽喉科とか、整形外科とか泌尿器科とか眼科とか…。 もう、イザとなったら関係無くなっちゃうんです。 そんな医療の最前線…。 目の前で苦しむ人が居たら、自分の得意分野とか言ってられないんですよ? 私の叔母が、そうでした。 血を見るのが嫌で、死体を見るのも嫌で、叔母は最初は心療内科だったんですって」 「──心療内科…?」 「えぇ。 ですから、私も同じ分野から始めました。 叔母の跡を継ぐために…。 今の私が、若かりし頃の叔母に少しでも近付けてたら良いんですけど…。 私の学力ではドクターにはなれなかったんですが…、それでも…少しでも叔母の近くに…って…」 「──恵さん…」 「兄と泰啓さんからユタさんを助けに行って欲しいと言われたとき…。 私は、運命を感じたんですよ。 兄は、私の願いを聞き入れてくれて僧侶っていう特殊な道に進んでくれました。 だから今度は、兄の願いを聞き入れて、叔母が最初に進んだ精神科という医療の道から歩き始める事にしたんです。 けど、ユタさんが良くなられたら、それからは私は思うように進んでいきますよ? 救急救命に異動願いを出します。 ──だから、いま誰に嫌がらせをされたって… 私にとっては、笑って受け流せる程度の些細なことなんですよ」
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