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今日も快晴。空の青い絨毯に、白く真っすぐな飛行機雲が描かれていく。
ブロロロロー・・・
二人乗りの小さな航空機は、空によく映える真っ白な機体。
そこには、二人の夫婦が見えた。しかし、こんなに清々しい空の中、何やら深刻そうな二人の顔つきは曇り空だった。
「やっぱり・・・産めないわ、グレード・・・」
若く美人な妻は、膨らみかかったお腹をさすりながら、弱々しくかぶりを振った。
「なんでだ・・・?」
妻の呟きに驚き、その横で夫グレードは運転の手を止める。
「もう何度も話し合って決めたじゃないか・・・」
「だって・・!私達・・・育ててあげられないのよ・・・!?」
今二人は、優雅に空の旅を楽しんでいるわけではなかった。
牢獄へと向かう、なんとも絶望的な道中なのだ。
「この子がどれ程孤独になるか・・・グレード、私達が死んだら、この子はどうするの・・?!分かっていて、不幸な道を行かせたくなんかない・・・!」
目を潤ませる妻を横目に、グレードは黙って"自動運転"のスイッチを押した。
ハンドルから手を離すと、体ごと妻の方を真っ直ぐに向く。
「親がいないと不幸だなんて、なぜ決めつけるんだ・・・?サラ、
君は両親を亡くしてるけど、結婚した時にこう言ったじゃないか。
・・・"私は生きててよかった"と・・・。
あれは本心だったろ。
今となれば、不幸だったと思うのか・・・?」
サラの目からは、ゆっくりと涙が伝った。
「・・・違う・・。私は今もとても幸せよ」
「なら、この子もそうなる」
グレードはサラの手を握りながら、はっきりと言った。
妻の涙は辛かった。それでなくても、今から行く先は無罪の牢獄だ。
「人は愛で生まれ、愛を知るために生きるんだ。
生まれて出会うはずだった人に出会えないなんて、悲しいだろ。
・・・サラ、俺はこの子に会いたい・・」
サラのお腹が振動した。中から生きた身体が出ようとばかりに、必死に訴えるかのように。
「今、蹴ったわ」
サラの涙が止まる。
「・・・ほら、また!」
今度はグレードの手を取って、一緒にお腹を触ってみた。
二人は顔を見合わせた。
「逞しい足じゃないか」
グレードはははっと笑うと、愛おしそうにお腹をさすってやった。
「この足があれば、どこへでも行けるし、生きられるさ。・・・いい空の人間になる。・・・泣くなよ、サラ。二人の子供だろう・・・?
産まれる前から・・・俺はこの子を愛してる・・・」
「私もよ・・・・私も愛してるの・・・。」
二人・・・いや、三人の家族の目前には、空に浮かぶ牢獄が見えてきたー・・。
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