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「な? 飛べたろ?」
風を感じながら飛翔した先に、男がいた。一面の青色のなかで、悪戯気に笑んで見せる。女は興奮気味に、「うん!」と頷いた。すると、ごく自然な動作で男が手を差し伸べた。
「さて、飛べるようになったことだし、行くか」
女はその手を迷わず取った。
飛び去る間際、女はなんとなく、自分を縛り続けた大地を見下ろした。空から見ると、なんとちっぽけなものだろうか。今は、どうしてあそからずっと飛び立てないでいたのかが、不思議に思えるほどだった。
そのちっぽけな大地に、無数の十字架が見える。飛びたいという思いと、なにより自身を信じることのできなかった輩たちだ。彼らに思いを馳せながら、女は目を閉じる。
次に瞼を開いたとき、先に見えるのは、どこまでも広がる大空だけだった。
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