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視界に広がるのは遥かなる空だ。
生まれたときからずっと、見上げてきた空だった。
鋭い金属音があった。また一人、空に魅せられた者が鎖を断ち切ったのだ。
鎖を断ち切った少年は、与えられた機械のツバサを必死にはばたかせているが、一向に飛べる様子はなかった。金属の鎖は解けても、大地の鎖を、おいそれと解くことは叶わない。
そんなことはこの少年も分かっているはずなのに。
女は漫然とその様子を眺めていた。
無駄なのに、と思いつつ、見事鎖を断ち切ってみせた少年に対する羨望が胸に広がっていた。憧れてもなお、自分には出来ない選択に思えて仕方がなかった。
しかし、憧れは所詮憧れだ。理想だけでは何もままならない。
空気を裂くように嫌な音が走った。必死にはばたこうとした、少年のツバサが遂に限界を迎えていた。繊麗な金属のツバサに大きな亀裂が刻み込まれ、弾けた。粉々に砕けたツバサが虚しく大地の引力に寄せられる。少年が力なく地に伏せた。
もはや見慣れた光景ではあったが、何度見ても虚無感に襲われる現実であった。
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