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女は、空と大地の見えるこの場所しか知らない。ずっとここで、鎖に縛り付けられて、空を仰いできた。かつてはたくさんの輩(ともがら)もいたが、彼らは逝ってしまった。みんな、空に魅せられた。
――見上げつづけた空を、飛びたいと思ってしまった結末だ。
飛べるわけがないのだ。いくら自分たちが、飛ぶためだけにつくられた存在であったとしてもだ。
平坦な大地に突き刺された、無数の十字架の数だけ、飛びたいという意志が挫かれてきた。いつか、自分もああなるのだろうと思うと、なんとも凄惨な思いになる。
それでも自由な空を見上げてしまうのを、止めることはできなかった。
「ついに二人だけになったなぁ」
気の抜けた声に、女は隣を見やった。
最後の輩である男が、胡坐をかいて空を見上げていた。
不意に男が女に顔を向けた。首にまで巻かれた男の鎖が、チャリ、と音をたてた。
「みんな、無理だとわかっているはずなのに、馬鹿よね……」
女の呟きに、男はくつくつと笑う。
女は目を細め、不審げに男を見た。この男とは長い付き合いであったが、時々なにを考えているのか、わからなくなるときがある。
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