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「飛べないとわかっていても、飛びたいという衝動は抑えられないものなのさ。俺たちは、そういう風につくられたんだからね」
「……私は別に、飛びたくなんて……」
言いながら、それは本心ではないと悟った。必死に閉ざそうとする心のどこかで、飛びたいという叫びがあった。
男はすべてを見透かしたように笑う。
「俺たちは飛べるよ。あいつらが飛べなかったのは、疑ったからだ。飛べるはずだったのに、飛んだ自分の姿を疑ってしまった」
それだけのことだよ、と男は言った。どこか、寂しさの入り混じった声音だった。
悲哀を感じられたのは一瞬だけで、男はすぐにいつもの調子に戻った。
「お前はどうする?」
「私は……」
女は自分の心がわからなかった。
ただ、このままずっと、ここに縛られて、空に思いを馳せ続けるのは嫌だった。やはり自分も、飛びたいのだろうか?
「俺もそろそろ行こうかなぁ」
男が唐突に言った。驚いて隣を見ると、男は、いつになく真剣な面持ちで空を真っ直ぐに見上げている。
「もう、ここに縛られ続けるのにも飽きた。俺は、あの空を飛ぶよ」
空から視線を落とし、女に向けて、男は破顔した。いつになく無邪気な笑みだった。
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