桜の木の下

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"明日もここにいる"そう話した少女の姿を頭から払いのけると、リクは庭に止めてあった黒いバイクに跨がった。 外は肌寒く、冷たい雨が降り続いていた。 雨避けのために被ったヘルメットが、慣れないせいか邪魔くさい。 (・・・カボチャ・・・茶ずけ・・・・・・マヨネーズ・・・・) 頭の中で買う物を復唱していると、学校の裏門が近づいてきた。 (・・・まさかな) どうせ、あの少女いるはずない。 ちらりと、横目で裏門を見る。 ほーら、いないじゃん。と、思いたかったのだ。 しかし・・・ リクは思わず、急ブレーキをかけてしまった。 雨に負けじと佇む桜の下、昨日の少女は傘をさすでもなく、そこにいた。 それも、何やら嬉しそうに、回ったり跳ねたりしている。 「・・・・ ・・・」 もちろん、関わらずに通り過ぎることが、無難な選択だったのかもしれない。 しかしリクは、少女のあまりの不思議さに、ショックを受けていた。 「・・・何・・・やってんだよ、まじ」 誰もいない学校、閉められた門の向こう、少女はまるで水浴びをするかのように踊っている。 その姿は何故か、見る者をくぎづけた。 "変な人"以上の何かが、少女から感じ取れてならない。 リクは自分でもよく分からぬまま、バイクを下りてヘルメットを取った。 ピシャ・・・ピシャッ リクは、門に手をかけ、よじ登る。飛び降りる際には、水溜まりを足で散らした。 「~♪~~♪」 可愛らしい鼻歌が聞こえる。 (歌ってんのか・・・?) 雨にはしゃぐ少女は、リクがすぐそばまで近づいても、すぐには気がつかなかった。 「・・・おい」 ザーッ・・・ 「おいっ」 少女は歌と踊りを止めた。 「わぁ、びっくりした!マサキ君!来てくれたんだね!」 「は?」 (・・・誰だ?) 「昨日、お名前教えてくれなかったでしょ? だから、考えてみたの。マサキ君でいいかな?」 リクは思わず、笑いそうになった。何だ、ソレ。 「勝手すぎだろ。全然ちげーし。・・・リクだよ、名前」 少女のびしょ濡れの顔に、笑顔が広がる。 「リク君ね!なんて素敵なの・・」 「・・・あ?別にフツーだろ」 「ううん、名前があるってだけで、とっても素敵!」 少女は嬉しそうに、突然小さな手でリクの手を取った。 「ね、ちょっとおしゃべりしよう?」 少女はリクをぐいっと引っ張ると、桜の木の下へ連れて行った。
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