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遥か昔、そこには神がいた。 いや、女神というべきなのか。 新雪のような白い肌に、透き通るような瞳。それは儚く壊れそうで、けれど強く威厳を放つ。彼女は人間離れした美しさを持っていた。 脆く崩れてしまいそうな華奢な体。その体に、村人は鎖を巻き付けた。その手首に、村人は手錠をはめた。 黒くて重くて冷たい塊。彼女の体を縛るもの。彼女は何も言わない。表情も変えない。 こうなったのは村人の煩悩のせいだ。神として生きる彼女は、一年に一度だけこの地に舞い降りた。村の平和を願い、豊作を祈り、そして去っていくのがしきたり。 彼女のおかげで村は安泰。 人々は穏やかに暮らせていたのだ。 しかしふいに流れた風の噂。近々、国の支配を企む輩がこの村にも攻めてくるらしい……と、誰からともなく広まった噂。 それは村人を恐怖に陥れる。 恐怖は人を変える。 心を変える。 理性を揺らす。 無力な村人は、村を守るために必死に考えた。 そしてその答えが彼女であった。
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