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作物の不作。
不治の病。
飲み水の汚染。
穏やかだった村が荒れた。
一瞬にして地獄と化した村には、僅か一ヶ月で誰も居なくなった。
病による吐血の跡と、葬りきれなかった死体の数々。辛うじて立てられた十字架は十数本しかなく、死者の安らかな眠りを祈る余裕すら無いまま、村人は全滅したのだろう。
静かだ。
風の音と烏の鳴き声しか聞こえない。
恐ろしく静かに眠る村。そのうちに放置された遺体も腐り、土に消え、骨と十字架だけが残った。
そこに音が響く。
鎖の音。
鉄の擦れる暗い音。
神は涙を流していた。
目を瞑ったまま、ただただ流れる涙。
おびただしい量の鎖に包まれた身を、ゆっくりと動かす。
力の入らない足を何とか動かし、拘束されていた建物から一歩出たところで、彼女はへたりこんだ。鎖が伸びきってしまったから。それ以上進むことを許されない。
辺りは十字架。
上には空が広がっている。
『飛びたい……』
彼女は呟いた。
前に、同じことを誰かに伝えた気がする。
村は死んだ。
神が殺した。
否。
村人が自身で滅ぼした。
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