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『飛びたい……』 もう一度。 目を開け、空を見上げ、彼女は祈る。 飛びたい。 飛びたい。 そして、彼女の背に翼が生えた。 誰も見たことの無い翼。 まるで何かの機械のように。金属で出来た冷たい翼。 それは、彼女が永い間冷たい鎖に触れてしまっていたからなのか。 天使とも死神とも違う、彼女だけの翼。それは神秘的で、それから解き放たれる青白い輝きは、彼女の鎖を断ち切った。 哀しい音をたてて壊れゆく鎖が、虚しく地面に横たわる。 神を泣かせた罪は重い。 翼を得た彼女に、もう涙は無かった。生え立ての翼を大きく広げ、彼女は空を仰ぐ。 グンッと一度大きく羽ばたくと、彼女は大空へと舞い上がった。 安らかな光に包まれるなかで、彼女は下を見つめた。 滅んだ村。 神に愛され、殺された村。 上から見るとちっぽけで、小さい中に密集する幾つかの十字架が、やけに美しく見える。 十五年。 永遠の命を持つ神にとっては、一瞬にすら等しい出来事。けれどそんな一瞬がひどく寂しく、悲しかった。神はそれが哀しかった。 鎖は、嫌だ。 ヒトも、もう嫌だ。 そうして神は、空へ飛び立つ。 神の去った村には、水の汚染によって毒と化した筈の土に、新たな生命が芽吹いていた。 また始まる。 ここから始まる。 その新芽が育つ頃には、きっとまた何かが起こるのだろう。 空の彼方へ消える瞬間、彼女はふと羽ばたきを止めた。風に踊る髪をそよがせ、新たに始まった村を見つめ、そして小さく微笑む。
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