廃城の記憶姫

2/2
前へ
/192ページ
次へ
 ゆらりゆらゆら。  光は踊り、蝶が舞う。  古びて朽ち果てた城に彼女は住んでいた。幻の世界を行き来するようになった城の当主は、自らの名前を忘れた姫だ。  他者の記憶を奪わねば、はらはらと自らの記憶を少しずつ失う少女。  森に彷徨う者があれば、彼女が帰り道を指し示してくれるが記憶を奪われてしまう。 「迷ったならば、わたくしの城へいらっしゃい」  現(うつつ)では廃城となった場所。  そこで彼女がふわりと舞い踊る。古びた城に朽ちた庭園が煌めいて、蝶が舞い、光が踊るたびに揺らめく。そうして美しい幻を見せる。  優美な城に招かれて旅人や迷子は夢を見る。儚く短い夢を見て、一部の記憶を姫へと捧げて森を出るのだ。  ゆらりゆらゆら。  光は踊り、蝶が舞う。  廃城が魅せるは、記憶を持たざる姫の世界――。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加