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「君の名前は、帰ってくるように願ってつけた。……来世があるのならば、私の元に帰っておくれ」
「もちろんです。あなたの元でしか私は生きれません。輝明様が、蝶の帰る場所ですから」
しばらくしたある日。
屋敷の当主の亡骸の側に美しい人形が寄り添っていた。その精巧に作られた人形に惚れた者が、いくら歯車を動かそうと鍵を差し込んでも人形が動くことはなかった。
当主の遺書に書かれた通りに人形は、当主と共に燃やされた。
普通ならば、人形を共に燃やすことをどこかおかしいと言うだろう。しかし、そんなことは誰も口にしなかった。
幼い頃から側にいて世話をしてくれた人形は、病気を患ってから誰も近付いてくれなくなった当主にとって大切なものだったのだろう。
そして、当主の患った病気の細菌が人形に移っていたらと恐怖した者がいたからこそ、人形は当主と共にこの世を去った。
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