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「む?」
佳奈が心配そうに訪ねてくる様に
愚問だと思い、
「いえ、体を壊した方が大変です。
何かありましたらお気軽にお申し付け
ください」
とは言ってみたものの、
「お気遣い有り難うございます」
こんな安い言葉をかけても彼女の仕事は減らない。
しかし――、
「嬉しいです」
佳奈の笑顔にむしろ救われている自分は特製のお弁当やお手製のお茶、そんな物でも彼女を笑顔にしたあげたいと思う
のは、ただの同情なのか、それとも……
「さて、もう一踏ん張りですね」
「書類用意いたします」
「お願い致します」
そのあとも続いた仕事。
結局、自分がどんなに頑張ったところで
どうする事もできないと佳奈が気づいたのは仕事を後回しにしてsweet roseに
向かったと言うのに、到着したのは
18時30分を回った頃。
「食事時間は後の仕事をするならば
1時間程度が限界かと」
「分かった」
「駐車場でお待ちしております」
「ありがとう。行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
ヒールなりに走り店に向かう途中で
立ち止まって少し遠くを見つめた。
その視線の先にはドレスを纏う女性達と
楽しそうに話す康介の姿。
自分が呼んでおいて……。
書類整理を後回しにしてまで、
来たかいはどうやらなかったようだ。
「……。」
馬鹿らしくなった佳奈は足早に
引き返した。
どうせ康介が自分の存在に―――
「佳奈!!」
「えっ?」
思わず振り返ってしまうと、
それはそれは嬉しそうに笑って
こちらに走ってくる。
「良かった、来てくれたんだな」
「30分程遅れてしまいましたが、
もう他の方と食事を
「する訳ないじゃんか、早く行くよ」
不意に繋がれた手。
佳奈は手を掴んだまま立ち止まる。
「手、熱くないですか?」
「あぁ……外で待ってたから
寒くてカイロを握り続けてたんだ」
そのまま空いた手をオデコを当てた。
「本当だ、顔は冷たい。
ごめんなさい、私なりには仕事を
頑張ったつもりだったのですが」
すると心なしか康介の顔が赤くなった
様な気がした佳奈は首をかしげた。
「私の手、そんなに熱いですか?」
「うん。すんげぇ暖かい」
道の真ん中で抱き締められた。
ギュッと力強く。
「あの……、人が見てます」
「もうちょっとだけ……」
康介のコートまでもが冷たい。
いつから待っていたのだろう……、
そう思うと胸を締め付けられていた。
「ごめん、じゃ行こう」
「うん……」
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