再会の章第一話:鳥の籠

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「すぐ戻る予定ですが、何かあれば 携帯の方に連絡してください」 「どちらに行かれるのです?」 私が立ち上がるとほぼ同時に立つ 岬さんが、鞄を持とうとする手を 急いで止めた。 「下に高木財閥の御子息が来てるので 迎えに行ってきます」 「分かりました」 「行ってきます」 岬さんが仕事に戻るのを確認してから 急いでエレベータに乗りロビーに向う。 エレベーターが1階で止まってドアが 開き、受付の機械を通ると大袈裟に手を 振ってくる男性が嫌でも目に止まった。 「佳奈!!待ってたよ!!」 人が行き交うロビーに響く男性の声。 ソファーに膝をついて身を乗り出し、 何故だろう愛犬のゴールデンレトリバー を連想し不覚にもクスッと声が漏れた。 私服で、程好く伸ばされた茶髪に金の メッシュ、両耳合わせてピアスが7つは 飾られた派手な容姿。内情を知る会社の 人間で無ければ御曹司にすら見えない。 「お待たせして申し訳ありません。 高木様、会社に来る時は正装をと お願いした筈ですが?」 「それは断っただろ? 堅いの嫌い。俺はありのままの自分で ここに来たいんだ!!」 拗ねたような仕草に何やら半透明の 尻尾が垂れ下がり、そっぽ向かれた。 「それはそれは失礼致しました。 本日はどうなされましたか?」 「今夜さ、佳奈とご飯に行きたくて、 アポ取りに来た。 前、急に来ても困るって言ってたから 早めに予約しておこうと思って」 ほら、約束を守ったよ、良い子だろ? 頭を撫でろと言う態度に渋々従い、 撫でると嬉しそうに笑っている彼に 心の中で溜め息をつく。 「そ、それがですね……。 本日昼より会食の予定がありまして、 夜も会食ですのでご一緒しかねます。 それに、この様なお話でしたら私に お話して頂くより、直接お父様に言って 頂いた方が早いかと……」 できるだけ落ち着いた声色で対応したが 断っているのには代わりなく、 「それ、誰?」 さっきまで可愛い笑顔だったのが、 言葉を言い終わると一気に不機嫌となり 私は見下ろされた眼力の餌食と化す。 「予定に関わることですので お答えできません」 「佳奈が教えてくれなくても、こっちで 調べれば分かる事だ。態々こうやって 約束を貰いに来たのに他の奴と飯に行く なんて、俺が許す訳ねぇだろ? そいつの会社潰――」 「それ以上言葉を続けないでください。 私は、まだ貴方を嫌いになりたくない」 言葉を遮るように自分の人差し指を 高木様の唇に当てた。
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