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その瞳は本当にやりかねない人の目。
「それって、今は嫌いじゃないんだ」
「私は、まだ貴方をよく知りません。
知らない相手を嫌っていては良い出会い
なんて出来ませんから」
“この人に出会って良かった”と思う
のには、長い時間の積み重ねが必要。
苦楽を共にして、ふとした時に染々
感じるものだと思っていた。
でも私は、既に最近出会った高木様の
中に想い人の面影を見つけていた。
だから嫌いになれないのが本音。
「本当に佳奈って堅い。
融通が利かないって言うか、なんか
他人から距離を置いてる気がする」
図星だ。
「本当は彼氏とか居るんじゃないの?」
「いませんよ。もしそんな方がいるので
あれならば、高木様に私を諦めてくれと
お願いすると思います」
「なら良かった。俺も佳奈の嫌がる事を
しなくて済むし」
本当に、この人なら私の為と聞けば
平気で何でもやりそう。
それが私の望みじゃなくても……。
「では、私の嫌がる事をしたくない
高木様との夕食はまた後日と言う事で
宜しいですか?」
「いいよ。その代わり軽食付き合って。
どうせ朝御飯抜いてるでしょ?」
「よく……ご存じで……」
「だからさ。ほらサンドイッチ買って
来たよ、邪魔にならないようにするから
隣に居させてよ」
「分かりました。
第2応接室にを開けさせるので
そちらでお待ちくださいませ」
「佳奈は?」
「ノートパソコンと書類を用意でき
次第応接室に行きます」
携帯で岬さんに連絡を取って部屋の
準備をお願いし、OKを貰って
エレベータの方へ手で道先を示した。
受付の機械に社員証を通すとAの文字が
表示され、向かうと到着を知らせる
ランプが点っている。
「どうぞ、こちらから」
内側のみから開けられる扉を開けて、
辺りを見渡しながらゆっくり歩く
高木様の手を引き一番遠いエレベータに
飛び乗ると、すぐ扉は閉まった。
「駆け込み乗車って初めてかも」
「も、申し訳ありません。
なんせ社員が多いので一度逃せば
今度いつ来るか分からないので……」
「明日から毎日サンドイッチ持って
来ようか?」
「いえ、それには及びません。
毎日抜いている訳ではないので……」
「じゃ暫くはこのままな」
ぎゅっと握られて、まだ手を繋いでいる
事に気づいたけど話してくれる筈もなく
応接室までそのまま。
我ながら、馬鹿な事をしたと後悔するも
時既に遅し……。
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