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コンコンッ
「失礼します」
応接室に入ると、岬さんを筆頭にお茶を
準備している途中で、私達を見るなり
全員の手が止まった。
「申し訳ありません。急な事でしたので
しつらえができておりません」
怒っているような岬さんや皆さんに
申し訳ないと思っているのは私だけ、
「別に
「岬さんも皆さんも貴重な時間を
取らせて申し訳ありません。
後は私が引き継ぎますので、
御自分のお仕事にお戻りください」
暴言が出てしまう前に高木様よりも
一歩出て頭を下げた。
「では、佳奈様の仕事道具をお持ち
致しますのでこちらでお待ちください」
「お願いします」
自分で取りに行こうと思っていたが、
威嚇する高木様を1人にして暴れられ
ても困る。
2人掛けのソファーに座ると御絞りと
珈琲が出され、高木様の分も用意すると
皆出ていってやっと落ち着けた。
「仕事、忙しいのか?」
「それなりに。もう少し自分で決められ
たら高木様との時間も作れるのですが、
父が組んだ予定に背けない私にはこれが
精一杯です」
「なんか……かえって悪い事したな……」
父の名のせいか、尻尾を垂れ下げて
俯いてしまった。
父が彼を誘って食事をする時、どんな
態度で接しているのか、彼にとっても
父は恐ろしい存在のようだ。
「ですから、私をお誘いの時はお父様に
お話頂いた方が無駄な時間を過ごす事
なくお食事できるかと」
「でもさ、そんな事したら婚儀日程とか
早まるんじゃない?俺はそれでも良い
けどさ」
「あぁ~……それは困りましたね」
それだけは本当に困る。
彼氏が居なくとも待ち人は居る。
途方もない約束が今の私の生きる糧、
それすらも奪われたら私は――
コンコンッ
ガチャッ
「申し訳ありません、遅くなりました」
「ううん、有り難う」
岬さんからパソコンやらファイルを
受け取り、電源をつけて深呼吸。
「ではお静かにお願いしますね」
「だな」
30分も経つ頃に机にはサンドイッチが
広げられて差し出されたタマゴサンドを
受け取り口にする。
「そう言えばさ、佳奈って俺の曲
何でも良いから聞いたことある?」
「いえ、まだ私には音楽鑑賞の余裕が
ありませんから」
「ならこれかけてよ」
CDウォークマンから抜かれた
ディスクを手渡されパソコンに入れて
再生させた。
スピーカから流れてきたのは、
ゆったりとしたラブソング。
「たまにはこうやって仕事するのも
悪くないんじゃない?」
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