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「わ、私には駄目みたいです。
集中できないので……」
慌てて消した。その声は待ち人の、
私が今一番聞きたい声そのもの……。
「残念、こうしてればいつでも俺の
声を聞いてもらえると思ったのに……」
「ご、ごめんなさい。
でも練習しておきますから」
ずっと、聞きたかった声に折角の
サンドイッチを落としてしまい、
手の震えも涙も止まらない……。
「どうなされましたか!!」
出入り口近くで待機してくれていた
岬さんが声を掛けてくれたけど、
俯いて首を横に振った。
「な、なんでも無いです。
ごめんなさい」
「気分が悪いのでしたら無理をなさら
ないでください」
「ほ、本当に……違うの……」
ハンカチを受け取り涙を脱ぐって、
優しく背を撫でてくれる手に合わせて
深呼吸。
「ちょっとは俺を見ろよ!!」
いきなり浴びせられた言葉の意味が
理解できずに顔を上げた。
「俺達、婚約してるんだよな?」
「一応……書面上では」
「お前、その自覚あるの?」
「ないかもしれません……」
「興味ない……?
ファンなら喜びのあまり卒倒する様な
話なんだぜ?もっと喜べよ!!」
ショックを隠せてない高木様の表情に
私はどんな失態をしたのか考えるが
分からず、それでも制約結婚なんて
死んでもお断り。
「なら、喜んでくださる方と婚約して
ください!!私には荷が重すぎます!!」
何とか落ち着くと立ち上がって
面と向かって歯向かった。
「俺がいなきゃ潰れるんだろ!?
だったらもっと俺に媚売れよ!!」
「売れるわけないでしょ?
お金に人生を捧げられる訳がない!!」
「だからってこの会社がどうなっても
良いのか!?」
「私を売らなければ成り立たないような
会社に存続価値はない!!」
言っちゃ駄目だって分かってる。
この話が破談になれば、高木からの
支援金がなくなり倒産は間逃れない。
分かってるけど、私にだって感情は
ある。
「落ち着いてください。
頭に血が上ったとしても口にして
良い言葉とそうではない言葉を
区別できなければ困りますよ」
岬さんにふんわり抱き締められ、
驚きのあまり目が点になった。
「あんたも佳奈に惚れているのか!?」
「いえ、私は秘書にございます。
しかし、佳奈様を傷つけられて黙って
いられる程、器は広くございません。
どうかお引き取りを……」
「分かった、また来る」
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