再会の章第一話:鳥の籠

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「暫く来て頂く無くて結構。 貴方様程の方がSPもお連れにならず 連日こちらに来ていては、下に示しが つかないのでは?」 そう言って出て行く音が聞こえた。 あぁ……やってしまった……。 その頃佳奈は部屋を出て直ぐの壁に 沿って足から崩れていた。 またお父さんに怒られる……。 どんな事をしてでも、けして破断に してはならないと耳がタコができるまで 言われ続けている、此所で働いてくれる人と会社の存続の為に。 「私は悪くない……」 そう思いたいが、何だかモヤモヤする。 「私は……悪くない……」 立ち止まると不意に涙が溢れた。 早く迎えに来いよと呟いた言葉は 誰も答えなど与えてくれぬまま 5階のオフィスに戻った。 「御免なさい、遅くなりました。 今から出ますので周防さん、 一緒に来ていただけますか?」 ドアを開けるなり荷物を置くと 周防は仕事用の鞄を佳奈に渡した。 「お供させていただきます」 「有り難う。あっ、そうだ。 皆さん、昼休みにでも冷蔵庫の中に デザートを用意させて頂きましたので 是非食べてくださいね」 「「「有り難うございます。 いってらっしゃい!!」」」 「はい、行って参ります」 佳奈はにっこり微笑みオフィスを 後にし、足早に商談先へ向かった。 その移動中―― 「先方には他の商談により 10分遅れると伝えておりますので ご飯をお食べになってください。」 そう言って周防は木箱を差し出した。 「えっと……。」 受け取らされたものの、 見たことのない立派な入れ物に 気が引けてしまい戸惑っていると、 周防が横から手を出し箱を開けた。 「僭越ながら、食堂の調理場にて 私が作らせていただきました。 お口に合うかどうかは分かりませんが、 どうぞお食べになってください」 作ってくれた物ならばと安堵の表情で 頭を下げる。 「喜んでいただきます」 美味しそうに食べる佳奈の姿に ほくそ笑み、そっとお茶を差し出し 食べ終わるのを静かに待った。
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