再会の章第一話:鳥の籠

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「こちらの商品は甘さ控えの大福と なっておりまして――」 行き着いた某会社のオフィスにて 5社の商品を食べ比べを行っていた。 笑顔で説明を聞きながら質問しているが 佳奈のポケットの中では携帯がずっと 震え続けている。 電源切っておけば良かったと後悔しても 時は既に遅し。 「ごめんなさい」 携帯を見ると18件の不在と 高木の文字。 「社長からなので少し外します。 周防さん、申し訳ありませんが よろしくお願いしますね。」 「畏まりました」 「失礼致します」 一礼してから部屋の外へ。 まだ鳴り続ける電話に出た。 「もしもし、如月です」 「あっ、俺なんだけど 「ただいま会議中なので手短に」 「18時にレストランに来て」 「困ります、今日はかいしょ 「sweet roseで待ってる」 プツ プープー 「困るって言ってるのに……」 半ば苛立ち気味にボタンを押し、 ポケットにしまって深呼吸してから 再び部屋に戻った。 「ごめんなさい。」 「社長がどうかしたのですか?」 「あとで話す」 まさか康介からとも言えずに プレゼンを再開させた。 どの商品を会社からの仕入れとして ライブなどのイベントに持ち出すのか 決めなければならない。 事はこちらの方が優先。 味だけで言えばどれも美味しくて、 佳奈だけでは決められない。 プレゼンを聞く限り拘りがあり、 一生懸命に考え作ってくれている。 個人的に言えば全部欲しいのだけど、 全部を仕入れるには予算オーバー。 ふっと隣を見ると表情を変える事なく 黙々と食べ続ける周防。 「お気に入りありますか?」 「そうですね……、 個人的なお気に入りはありますが、 夏、炎天下の中で食べたい物とは 変わってきますね……」 そっか、野外ライブもあるんだよね。 それもちゃんと考えなきゃ……。 自分の味覚の判断も大事だが、 もっと大事なのは送られた側の 食べるタイミングと気候の方が重要。 改めて見つめ直すと―― 喉が乾きそうなクッキー、 蓋を開けると果汁が溢れても おかしくないフルーツゼリー、 保存を考えなくてはならないアイス、 好き嫌いが別れそうな大福。 消去法でいくならば残りはベーグル。 だけど、ジャムは髪や衣装に着けば 対処が大変だが、ドライフルーツを 練り込んでもらえば出せなくもない。 佳奈は忘れてしまわぬうちに 今思っている事を手帳に纏めた。 「プレゼンは以上です」 「有り難うございました」
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