杜若姫

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宵の闇をかき消すように月の光が自らの車に当たっているのが、中からでも見える。眩しい、時はもう丑の刻をまわっている。 物の怪などでもでましょうか、と付き添いの女「皐月」がふざけた様子で自分に問いかけてくる。 「さすれば皐月、美しいお前はとって食われてしまうな」 幼なじみである皐月は口元を指で隠しながら可笑しそうに笑って見せた。細い切れ目が、ゆっくりと柔らかさを演出していて御伽噺の姫のようだなと思ってしまった。 「ですが時定様?ここでは物の怪、と呼ばれるあの杜若が住んでいるそうなのです」 馬の足が止まる。 時定は深刻そうな顔をし、そして、一つため息を付いた。 その表情に皐月は眉根を下げる。 「楼蘭の杜若。彼女が現れた年は必ず帝が死ぬ…どうしてこのようなことが起ころうか?」 「私にもわかりません、ですが時定様は必ずや私めがお守りいたします」 女性らしからぬ発言にプッと吹きだす時定にうぅとうなり声を上げる皐月。その姿は、端から見れば恋仲のようにも思えた。 二人がそうしているうちに、楼蘭へと近付いていく。月明かりとは違う光に少々目が眩みそうになるがここを越えなければ地元へとは帰れない。二人とその一団は、ゆっくりと楼蘭の地域に足を踏み入れたのだった。
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