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全てに絶望していた俺は、自らに死という名の解放を与えようとしていた。
大量の薬を調達し、思い出の場所に向かった俺。
一瞬の躊躇いの後、口に運ぼうとした薬。
目の前を影が過ぎり、薬を持った手に衝撃が走った。
気づいた時には薬は俺の手から放れ、零れ落ちていた。
緩やかな放物線を描いて落ちたそれを拾い集めようと手を伸ばす。
手が薬へと届くというまさにその瞬間、革の靴が薬を踏み躙った。
そこで初めて、座りなおして邪魔をしてくる男を見上げた。
男はまるで枯れ木のように痩せ細った体躯をしていた。
こけかけた頬に隈のある青い目、ボサボサの茶髪。
白いシャツに負けないほど青白い肌で色あせたジーパンを履き、百八十五センチはあろうかという高身長でベンチに座る俺を見下している。
月光に照らし出されたその姿は、死神。
あるいはとても保存状態の良い生ける屍だ。
「……」
「なんだ、どっかいけよ。
金が目当てなら有り金全部くれてやるから」
「……」
男は黙って首を横に振る。
「じゃあ、何が目的なんだ?」
これが答えだ。
そう言わんばかりに俺の腕を掴み、無理やり立ち上がらせると男は走り出した。
細い腕のどこからそんな怪力が出るのだろうか。
細い足のどこでそんな脚力を出しているのだろうか。
男に振り回されるように俺はついて行くしかなかった。
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