至高の仕事

6/6
前へ
/133ページ
次へ
「とにかくなんでもいいから仕事決めるんだよ!」 「…はい」  どこか彼の言葉にも力がなくなってしまった。と、お母さんは思い出したように、あ、と小さく声を漏らし、言葉を続けた。 「そうそう、ハーブが切れちゃってね、ハーブセット、買っといてくれない? まじない付のね。マーリアルのハーブはもう最高なのよ~」 「はぁ? そんなの自分で街まで来て買ってけよ!」  彼がすかさずもっともなことを言う。 「何? 文句あるの? まったく誰のせいで交通費も出せないと思ってるのかねぇ?」  お母さんが皮肉たっぷりに言った。 「ぐ…はい」  勝てるわけがない。  お母さんは満足げに、うんうんとうなづき、じゃ、よろしくね~と手を振ると、携帯魔道話から消えていった。 「はぁ~~~~~~……」  彼はこの世のものと思えない低い声で、ため息をした。まいった、非常にまいった。彼の頭の中はそんな言葉で満たされ、グルグル回っている。 「ま、いっか! もう遅いし、とりあえず就職のことは忘れよう!」  楽観主義と言えば聞こえはいいが、ただの逃げともわからない実に紙一重の台詞である。ただ、事実時間は遅く、新たな魔導社(魔術産業によって経営されている会社のこと)を探すのはいささか無理であった。  彼は母に頼まれたハーブを買いに、魔道具屋へ歩き始めた。さりげなく注文をする母に腹を立ててはいたものの、気分転換にはいい口実であったのだ。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加