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「とにかくなんでもいいから仕事決めるんだよ!」
「…はい」
どこか彼の言葉にも力がなくなってしまった。と、お母さんは思い出したように、あ、と小さく声を漏らし、言葉を続けた。
「そうそう、ハーブが切れちゃってね、ハーブセット、買っといてくれない? まじない付のね。マーリアルのハーブはもう最高なのよ~」
「はぁ? そんなの自分で街まで来て買ってけよ!」
彼がすかさずもっともなことを言う。
「何? 文句あるの? まったく誰のせいで交通費も出せないと思ってるのかねぇ?」
お母さんが皮肉たっぷりに言った。
「ぐ…はい」
勝てるわけがない。
お母さんは満足げに、うんうんとうなづき、じゃ、よろしくね~と手を振ると、携帯魔道話から消えていった。
「はぁ~~~~~~……」
彼はこの世のものと思えない低い声で、ため息をした。まいった、非常にまいった。彼の頭の中はそんな言葉で満たされ、グルグル回っている。
「ま、いっか! もう遅いし、とりあえず就職のことは忘れよう!」
楽観主義と言えば聞こえはいいが、ただの逃げともわからない実に紙一重の台詞である。ただ、事実時間は遅く、新たな魔導社(魔術産業によって経営されている会社のこと)を探すのはいささか無理であった。
彼は母に頼まれたハーブを買いに、魔道具屋へ歩き始めた。さりげなく注文をする母に腹を立ててはいたものの、気分転換にはいい口実であったのだ。
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