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街は、夕日で赤く染まっている。マーリアルの街は素朴といえど、色鮮やかな建物が多く、形もへんてこりんなものが多数ある。そんな色とりどりの街も一日のこの時間帯だけは全てが赤く染まる。人々が家路を急ぐ時間でもある。というのも、魔法の効果というのは、朝と夜に力を多く発揮するもので、魔法産業を中心としたこの街は夕方には帰宅する者がほとんどなのだ。
ローブを身にまとった男、女がちらほら見え、夕日で黒い影が伸びる。まるで、この街が一つのミニチュアという錯覚に襲われてしまいそうだ。
夕方以降は、今度は道具屋の柿入れ時だ。朝から昼間までに消費した魔道具や材料を調達しに、道具屋を転々とする人々。「あそこはクラフトが安いんだけど、店員がね…」なんて、買い物客の声もちらほら聞こえる。
そんな商店街の一角に、一本の背の高い蔓(のような植物)があった。ジャックと豆の木の童話を彷彿させる蔓だ。街路樹にしては、建物の並びにあるのはおかしな話。見上げて先っちょを見れば、その正体が明らかになる。蔓の上になんと店が乗っかっているのだ。一見とてつもなく不安定に見えるが、蔓が頑丈なのか、落ちることはないようだ。
アルディはその蔓をよじ登っていた。
「まったく、なんで、毎回毎回…、こんなの、登らなきゃ、いけないんだ!」
まったくもっての感想である。この蔓の上のお店は魔道具屋で、街の中でも一、二を争う品質の商品を置いている。しかし、店長がまた風変わりで、“何か”の上に店が建ってないと気が済まないそうな。毎月、その“何か”が変わるもんだから、客は困ってしまう。
しかし、この店の品はとにかく質がよく、客足は減ることはない。店長が風変わりで面白いというのも人気の一つなのかもしれない。
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