僕のおとしもの

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屋上のドアを開けた。 そこには、雨に濡れるひとりの女の子がいた。大人びてはいるが、確かにあの写真で笑う彼女だった。 「これを」 ペンダントを差し出すと、濡れた長髪から、彼女の鋭い目が光った。 「もういらない…私は、人を殺したから」 「僕もだよ、人を騙して…自殺させた」 「でもありがとう」 「ああ…いいんだ」 「いいえ…ありがとう神様…」 雷が鳴った。その光のせいでか、彼女が一瞬で僕の目の前に移動した気がした。 雨に濡れて冷たいはずの体が、突然熱くなった。 一体…撲は… そう夜空に尋ねると、返事を返すように彼女が口を開いた。 「お父さんの仇よ!!」 次の瞬間、僕の体から、何かが引き抜かれた。 それが彼女が握りしめるナイフだと知ったとき、撲はふと思い出した。 七年前。 撲はあの白い家にいた。 「ですから、今投資頂ければ、来月には倍になります」 「なるほど…」 目の前ですんなりと騙された男…その顔が見えた。その顔は、あの写真で笑う…彼女の父親と全く同じだった。 そして…扉を少しあけ、心配そうにこちらを覗く、ひとりの女の子… 「まさか…あのときの?」 「そうよ、あなたが殺した男は私のお父さん…私が愛したお父さん…」 なんでだ?こんな偶然あり得るのか? そう夜空に尋ねても、暗い闇のような空は、何も言ってはくれなかった。 薄れ行く意識の中…彼女はペンダントを自分の首に回し、それを提げた。 「騙す相手を間違えたわね?」 僕の気のせいだろうか…彼女の背後に、あの写真で笑う男の姿があった気がした。 完。
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