僕のおとしもの

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「鴨津高校…」 急げ、急ぐんだ。彼女は、彼女だけは死なせてはならない。 死ぬのは…自殺するのは… 自分だけで十分だ。 いつしか太一の頭に‘ペンダントを返さねばならない,という命令は消えていた。 代わりに生まれたのは‘このペンダントを彼女に返したい,そういう自分の意志だった。 もう足は勝手に動いてはくれなかった。 それでもいい。 暗闇に浮かぶ学校。やはり少し怖かった。 とりあえず、玄関の扉をひとつずつ開けてみた。 左端から右端まで五つの扉がある。 「くそ、開いてくれよ!!」 一つ目、二つ目、三つ目…どんなに引っ張っても、押しても、びくともしない。 「頼む…」 目をつむり、四つ目を力強く押した。すると勢いよく扉は開き、また太一は走り出した。屋上へ…彼女のもとへ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加