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 やっとのことで船から開放された俺は、連れに先に行くよう促すと、その場にあった木箱に腰掛けた。船酔いの苦しさを紛らわせるため、二、三度大きく深呼吸をする。潮の匂いを体に取り込むと、気持ち悪さをこらえながら顔を上げた。    夜の海は真っ暗だが、月の光のおかげで僅かに波立っているのがわかる。右手を見ると、異国風な純白の建物がぎっしりと並んでいる。深夜のため、窓から明かりが見える建物は一つも見当たらない。建物のそばで一定間隔に設置されている街灯は、うっすらと道を照らしていた。  木箱から降りると、ありったけの意思をふりし絞って船着き場を進む。数メートル先にある街灯の光はここまで届かず、ほとんど足元は見えない。    このまま足元を探って歩くのも面倒だ。そう思うと、右手を腰の辺りまで持ち上げ、手の平を上に向けた。途端、手の平の上にりんごほどの大きさの、小さな火の玉が出現し足元を明るく照らし出す。そばにあった看板の文字が浮かび上がり『インフィアナへようこそ』と書かれているのが確認できた。木でできた足場の上をゆっくりと歩きながら、俺の頭はぼんやりと昔を思い出していった。
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