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「何故、僕の名を……?」
「何でも知ってるわ。私は姫だから」
少し的外れな答えな気もするが、なんだかどうでも良いように思えた。
いまだにぼーっとベッドに居る僕に痺れを切らしたのか、彼女はドレスの裾を揺らしながら歩みより、僕の腕をそっと掴む。
「食事の用意が出来てるの。行きましょう?」
またふわりと微笑む彼女。僕は為す術もなく手を引かれて部屋を後にした。
彼女に案内されるままに歩く中で、僕には分かったことがある。ここは城の中だということ。
僕が迷いこんだのは朽ち果てた廃城だったはずだ。こんなに煌めく美しい城のはずはない。けれど彼女は確かに言った。ここは自分一人が住んでいる城なのだと。
「君はどうして、一人でこの城に?」
「他に一緒に住んでくれるような人がいなかったの」
「何故?」
「あ、着いたわ」
僕の問い掛けは遮られた。彼女の声に反応して前を向くと、そこには大きな大きな木製の扉。その中で目を奪う金のドアノブを回すと、ゆっくり扉が開いていった。
その先に広がるのはこれまた豪勢な大広間。広すぎて目眩がするほどだ。その部屋の真ん中に、一体何人座れるのだろうというほどの長いテーブルと椅子。
「座って。いま料理を運んでくるわ」
「あ、なら僕も……」
「いいのいいの。任せて」
彼女の言葉に、また僕は何も言えない。躊躇いがちに腰を掛けた僕の前に、やがて沢山の料理が並んだ。
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