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「じゃあ、君はいつからこの城にいるの?」
「忘れたわ。私、過去は振り返らないから」
「ここはどこなの」
「忘れたわ。私、外には出ないから」
躍り続ける彼女と僕。動くたびに揺れる髪がどこか神秘的で、僕を見つめる彼女の瞳は吸い込まれそうで、何だか全てがどうでも良くなっていく気がした。
「どうしたの?」
「え?」
「聞きたいことは、もう終わり?」
聞きたいこと。何だったっけ。もっと沢山あった気がしたんだけど、どうも頭の芯が呆けてて考え事が出来ない。まだちゃんと目が覚めていないようだ。
「うん。もう聞きたいことは無いみたいだ」
「そう。なら、一緒に見てほしいものがあるの」
また僕は腕を引かれる。僕はそれが嫌ではなかった。何だか僕の知らない世界へ連れていってくれる気がして、何より彼女と触れていたくて。
大広間を出た僕と彼女は、何回か階段を降りて一つの部屋に辿り着いた。
「ここは?」
「中庭よ」
扉を開けた向こうに広がるのは、まるでどこかのおとぎ話に出てきそうな可愛らしい庭。歩く道は芝生で、沢山の花や植物が植えられ、植物公園や花畑を思い出す。見たこともないこの美しい庭園を、言葉で表す術が分からない。
「素敵でしょ? 私が唯一、安らげる場所なの」
そう言って笑う彼女の顔は、今までとは違ってどこか悲しそうだった。
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