廃城の記憶姫

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「寂しいの?」 「……ええ。こんなに素敵な庭も、毎日頑張って作る料理も、一緒に笑ってくれる人がいないと言うだけで、とても虚しいものに変わってしまう」 僕の手を握る彼女の手に、ぎゅっと力がこもった。小さくてやわらかい手がとても切なく感じる。 「ねえ、透。この庭は気に入った?」 「うん、とっても素敵だ。全部君が育てたの?」 「勿論よ」 咲く花にも負けないくらい美しく笑う彼女。それを見て僕まで思わず微笑んだ。彼女は魅力的だ。見るもの全てを魅了してしまうほどに。 それから僕と彼女は中庭を散歩した。咲き誇る花々はどれも綺麗で、彼女は何も知らない僕に花の名前を教えてくれた。 花言葉も教えてくれた。 その時間はとても楽しくて、沢山笑いあって、幸せとはこういうものなのか……と僕は考える。 「君は素敵だ。一緒にいると、僕は楽しくて仕方ない」 「私もよ。こんなに楽しいのは生まれて初めて」 だけど微笑む彼女はやっぱりどこか悲しそうで、僕は無意識に足を止めた。 「どうしたの?」 「あ、いや……」 何か言いたいのに、気のきく言葉も何も浮かばない僕。心とは裏腹に黙り込んでしまう自分自身が情けなくて思わずうつむいたとき、ある花が目にはいった。 見たことの無い花。 薄紫で、四枚の花びらが下に垂れている。まるで雨に打たれて項垂れるように。僕はそれに何故か心惹かれた。
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