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もうちょっとだ。もうちょっとで萌黄が助けを連れて帰ってきてくれる。
でも、その前に私の下で輝いていた魔法陣みたいなものが、私を、包んだ。
『―――奏、お前も文芸部、入るのか?本、読むのも苦手なのに?』
『何よ。苦手だから克服したくて頑張ってる、とは思わないわけ?』
『ははっ、そうだな。―――厳しく指導してやるから、覚悟しておけよ?』
記憶が、不意に蘇る。
これはいつの記憶だ?高校に入学して、入部届けを書いている時だろうか?
『俺は、お前の書く文章、好きだよ。率直で、素直で、飾り気はないけど』
『……それ、誉めてるの?』
『誉めてるよ。俺が好きな文章だからな』
嬉しかった。書くことが、楽しくなった。日記も、付け始めた。でも、それは慎が消えた日から、止まってる。
―――恨みつらみを書いてしまいそうで、怖いんだ。
どうして、消えた。どうして、いなくなった。どうして、どうして、と。
私が嫌になった?重くなった?学校も、部活も追いかけてくる私が鬱陶しくなった?
だから、あの日…慎が消える前日…最後に交わした会話は…。
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