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「…見付かりそう…?」
萌黄の切なそうなその言葉に、奏は何も言わずに曖昧に微笑んで首を左右に振った。
―――そう、彼女は人を捜していたのだ。
「あいつ、昔からかくれんぼは上手いんだよね。気配が薄いって言うかさ、隠れ場所が思いも寄らない所って言うかさ。
私、あんまり見つけたことないんだ。いつも、私が先に心細くなって泣いちゃって…心配して出て来てくれたの」
「ふふ、その状況、すごく想像できる。かなちゃんには優しかったもん、―――榊先輩。」
榊。その名を聞くだけで奏の心はしくりと痛んだ。そして、脳内にふっとその人の記憶が駆け巡る。
捜し人の名は―――榊 慎(さかき まこと)。奏の幼馴染であり、―――恋人である。
彼がいたから、わざわざバス通学をしてまで今の高校に進学した。彼がいたから、文芸部なんていう慣れない部活に入った。彼がいたから…奏は…。
「どうして、いきなりいなくなっちゃったんだろう、榊先輩…」
「さぁ、ね。…私が無理なこと言ったから、怒っていなくなっちゃったのかもね?」
「…?」
「…何でも、ない。…もう、帰ろうか。暗くなっちゃったし…、最近、ここの治安もあんまり良くないみたいだし。」
「あ、うん。」
奏は無理に浮かべた笑顔で萌黄の手を引いた。萌黄も話したくないことを無理矢理聞こうとはせず、黙って手を引かれた。
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