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「お仕事が入っちゃったよ」
肩をすくめて困ったようなそぶりをした伍長。任を受ける事を渋っているのかと思いきや、新吉には伍長の表情がどこか楽しげに見えて、首を傾げた。印象が、胡散臭いチビから不思議な魅力のある人に変わっていた。
その間にも、伍長は隊士に残りの稽古の指示を手早く出している。新吉は同胞に肩を叩かれ、伍長に見入っていた事に気付いた。あたふたと促された次の行動に移る。
と、そこへ伍長から声がかけられた。
「君の剣、もう少し慎重さが加われば良い物になるよ。一緒に倭国の人々を守っていこうね」
突然に間近から見上げられてうろたえたが、告げられた内容を理解すると、嬉しさが込み上げてきた。伍長の笑みにつられるようにはにかむ。
「は、はいっ。ありがとうございます!」
声を張り上げて勢いよく頭を下げると、頑張ってね、と応援された。
数人の手練れを連れて道場を出ていく伍長を見送る新吉の胸には、新たな使命感が宿っていた。自分自身の為だけでなく、この組の為に、ひいては人々の為に剣を振る使命感が。
その為にはもっと強くならなければ。
――まずは、伍長から一本だ。
今までにない熱心さで、鍛練に臨む新吉の姿がそこにあった。
了。
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