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「俺はこれでも道場一と言われてたんだぞ……なんであんな体格で細腕で捌けるんだよ……何かイカサマでもしてんじゃないのか……」
先ほど打ち合いを終えて、壁沿いの列に戻っていた青年――新吉が、釈然としない思いをぼやいていた。
「新入り。伊高伍長はな、杖を持った時の鉄壁っぷりは、そこらの三番組の奴の比じゃねぇんだぞ。見ての通りひょろっひょろだけどな」
「……ひょろ……そうですね」
「だろ? すげぇチビだし」
「…………」
隣に座していた先輩隊士に、適当だか的確だかよく分からない解説を受けて、新吉は黙りこんだ。
三番組と言えば、浅葱組でも防衛に長けた猛者の集まる守護部隊だ。組長や伍長は別格とは言え、隊士の腕も相当のもののはず。それに並ぶと評するのは身内故の贔屓目ではないか――手合わせする前ならそう思っただろう。
だが、伍長と実際に打ち合ってみて、なるほど理解はできた。剛剣が自慢の打ち込みが、まるで柳でも相手にしているかの如くに、ことごとくあの杖でいなされてしまう。自分の剣が通じない苛立ちと焦りのままにがむしゃらに打ち込んでいる内に、制限時間となったのだ。
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