--

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 女と見まがうような華奢な体格の相手に、一本どころか勝機さえ見出だせなかった。初めて属したこの組に自分の腕を売り込むつもりが、逆に上役に就く者の力量を思いしらされる事になってしまった。 「おーい、聞こえてるよっ」  その声で、思いに沈んでいた新吉はハッと我に返った。  今しがた自分が対峙していた時のように、稽古相手の木刀を杖で捌いていた伊高伍長から、ほんの一瞬その青い視線が飛んできた。自分に向けられたのか、あるいは先輩に向けられたものなのか分からなかったが、おのれの慢心を見抜かれたような気がして、思わず姿勢を正した。  隣で先輩が軽い謝辞とともに頭を下げた。自分も倣って、すみません、と声にする。  稽古の最中な為、それ以上の声はかからかったが、伍長の口元に笑みが刻まれたのを見て、許されたのだと安堵した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加