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うろたえながら先輩を見れば、彼は平然と額を撫でている。目が合うと、にんまりと笑みを返された。他の隊士達も、自分のように驚いている者はいない。どうやら伍長の異能は周知の物のようだ。
「僕は武士じゃないからね、君達みたいに刀や槍は巧く使えないんだ。僕の武器はこっち」
穏やかな口調で告げた伍長の指先が、新吉に向けられた。渦巻いていた風の塊が飛んでくる。咄嗟に対応できずに目をつむると、思わぬ威力の風圧に仰け反ってしまい、後頭部をゴツンと壁にぶつける羽目になった。
彼の慌てた様子に、一斉に笑いが湧く。等の本人は顔から火の出る思いだ。
「笑い事じゃないよ」
そんな空気を破ったのは、小柄な伍長だった。
「僕より優れた使い手はいくらでもいるんだ。どんな時でも侮らない事。でないと、命を落とすのは君達かもしれないよ」
口調はそう強い物ではなかったが、よく通る声で告げられた内容に、場は水を打ったように静まりかえる。新吉もその言葉に、自身の未熟さを省みた。
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