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【デイリィ2】
「今日は皆さんにそれぞれ思い思いの絵を描いてもらいます。完成したら先生に見せてくださいね」
「は~い」
美術室に集まった学生達が間延びした返事をして絵を描き始めていく。
どうにか授業に間に合った小林の授業が始まる。
学生たちが絵を描く間、小林も絵を描きながら部活を作ることを考えていた。
((部活をするなら美術室だろう。ここなら筆も紙も揃ってるし、何より運動部が使ってるグラウンドから遠いし、十分集中できる。ここ以上に条件がいい場所はないな))
根本的なところが抜けていることにも気付かず1人で盛り上がる小林。
そうして別のことを考えながらも、筆を持つ右手はスラスラと風景画を描き上げていく。
森の中で小動物たちが小さな楽器を持ち寄って演奏をしている絵。
木の一本一本の陰、動物たちの細かな挙動、色使い、光のコントラスト、細部に至るまで描き出された絵は今にも動き出し演奏が聞こえてきそうだった。
「…………」
「うん?」
誰かの視線を感じた小林は筆とを置いて後ろを振り返る。
ほとんどの生徒が椅子に座り自分用に用意された半紙に思い思いの絵を描いている。
その中で1人、絵を描かずに小林を見つめる少女がいた。
切れ長のまつ毛に黒目勝ちの瞳、凛とした鼻と口、束ねず腰まで伸ばした綺麗な黒髪の少女は少し周りとは違う雰囲気を纏っている。
容姿がずば抜けているのもそうだが、なぜかその少女がピリピリしているようにみえたからだ。
「……む」
少女は小林と目が合うとしばし凝視した後、机の上に用意された半紙に鉛筆を走らせ始めた。
スラスラと描くその速さは、美大出身の小林を驚かせるほどのスピードだ。
感心して少女に興味を持った小林が立ち上がりその少女へ近づこうとすると、別の女子生徒たちが半紙を持って小林のもとへやって来る。
「先生、私の絵見てください」
「うわっ!? 先生の絵すご~い。私好きだな~こういうの」
ここで補足だが新米教師、小林仁はいわゆるイケメンである。
新米で年も若いため、本人は知らぬことだが雷仁高校の女子生徒たちにかなり注目されているのだ。
小林の気を引こうとした女子生徒たちに阻まれ、結局「件の少女」に声をかける事が出来ぬまま授業が終わった。
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