傷と、痛み

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リアは屋上へ逃げ込んだ。過去のことを思い出していた。 先ほどの白衣の集団。あれはきっと自分の体を実験に使うつもりなのだろう。昔からそうだった。何故か自分は怪しい人間に捕まっては痛い思いをさせられる。もう嫌だ。 こんなことなら死んでやる。 どうして今までそんな簡単な発想が思いつかなかったのだろう。眼下に見える街並み。人が小さい。ここで死ねば母親の元へ行ける。 もういいではないか。死んでしまおう―― 「ここにいたか」 要が現れた。だからなんだ。この男は結局自分を組織に売り渡そうとしていたのではないか。少しでも信じた自分が愚かだった。人間など所詮こんなものだ。 飄々と善人を気取っておきながら、裏では醜い顔をしているのだ。汚い、下劣、卑怯。 「戻れ。何も悪いことなんてない。体を調べるだけだ」 そんなのは嘘に決まっている。この男は甘言を用いて、自分を支配しようとしているのだ。 リアは殺意を込めて要を睨む。 要は改めてその殺伐とした視線を向けられることに気後れしていた。それとは別にショックを受けた。 ある程度まとまってきたかと思えた絆は、あまりにも脆弱だった。
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