誰がために

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結果として、要の判断は――間違っていた。 敵は要が発砲するよりも早く、蜘蛛のように地面に這った。それは要が予測していた軌道よりも更に低く、銃弾は何も貫かなかった。常人には捉えきれぬスピードで、姿勢の急激なチェンジが行われた。先ほどの倒れるような動作は要の予想の上を行っていた。人間技なのかどうかも怪しい。 要は咄嗟にリボルバーを構えるが、蹴り飛ばされてしまい、やむなく徒手空拳の構えを取る。 ナイフを出そうとしても、構えた隙に殺されるだろう。 要は力こそあるもののスピードでは敵わない。ナイフをあの手この手で凌いではいるが保たない。 劣勢が続き要は遂に押し負けて足を払われた。押し倒され、間髪入れずに腹部にナイフが差し込まれた。半端ない激痛に呼応するように、血が溢れ出す。 「がっ……!!」 声にならない叫びが上がる。声を殺して苦痛に耐える。ぐりぐりと抉ってくる。容赦ない。 『――さて、あの少女を渡してもらおうか』 ようやく聞けた声は変声機を使用しているのか無機質な機械音声に聞こえる。不快な雑音だ。
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