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目が覚めると、白亜が視界に映った。首を軽く横に振ると、二人の女をなんとか確認できた。一人は静かに外を眺める妙齢の女――那由多。その女は要が目覚めたことに気づくと、静かに笑って、
「やはり死ななかったか。まあ然しものお前も一週間はお寝んねしていたわけだが」
――そうか。俺はリアを助けようとして、落下したんだったか。よく生きているな。
「……」
口を開けなかった。麻酔を打たれたらしい。
そしてもう一人の女――少女の方が正しいか――リアに目を向ける。リアは今にも泣き出しそうに要を見つめている。
「嬢ちゃんは一週間ずっとここにいた。いくら心配は要らんといったところでわかっているのかいないのか、ずっとあんたに付きっきりだ。まったくよくやるよ」
「……」
要は返事として軽く頷く。
リアの両手が要の左手を包む。不安に満ちた表情を要は正面から捉える。
「さて、私は出ていこうかね」
白衣を翻して那由多が出て行く。その後ろ姿は微塵も要への情愛など無いかのように冷静だった。
――そうだ、お前はそういう人間だったな。
それよりも今はリアの方が問題だった。
「…………」
触れたら今にも壊れそうな少女をどう宥めればいい?その答えを探すより早く――リアは泣き出した。本当に子供のように、素直に、純粋に、無垢なまま、ありのままで、泣いている。
泣き止む気配は一向にない。要の手に縋り付いては、頬を濡らす。
要は、唯一動く右手で彼女の頭を撫でた、ただ、撫でた。要が唯一リアに示せるサインは、これだけだ。
そしてその手に込められた要の願いはただ一つ。
――生きろ。
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