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彼女は僕の額に唇を一つ落とすと、今度こそ振り返らずに、真っ直ぐ空へ飛んで行った。
その姿が見えなくなるまで、僕はずっと空を見上げ…微笑んだ。
「………僕の翼は、折られてしまったからね」
さらりと風に揺られた髪は、彼女と同じ。
…数年前は、僕も彼女と同じ立場だった。
鎖で縛られ、閉じ込められ、人々の慰め者として生かされていた。
…だが、あの日、僕は。
ギュッと目を閉じた。
思い出しただけでも、背中に痛みを感じる。
「……」
僕はあの日から天使では無くなった。
……だが得たモノはある。
「………さぁ、次の街へ行こう」
神様は無力な出来損ないに力と役目を与えてくれた。
ぱちゃん…小さく水しぶきの音が聞こえた。
僕は振り返り水の指す方を眺め、ゆっくりとした動作で其方へ向かって歩きはじめた。
さて、次の捕らわれ天使はどこかな?
僕と同じ目に遭う前に、罪深き人間達を消して、天上へと還してあげよう…
…それが出来損ない天使の役目なのだから。
ふ…と目を伏せた。
キュッと両手を握り合わせ、僕は小さな声で囁く。
「役目を終えた暁には…どうか…僕にもう一度翼を与えて下さい…」
…僕は、もう一度、この空を…飛んでみたい。
<Fin>
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