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「……あ、そび、に、きた。…………つ、か、ま、った」
不意に水色のザンバラに切られた髪がはらりと一房零れ落ちた。
「……髪は?」
そう問うとちらりと視線だけ一瞬、僕の方へ向けた。
「……き、ら、れ…た」
「……そっか」
…まぁ分かってたけど。
この町の特産品として天使の織物、涙、爪などが売られていたことは良く知っている。
…だからこそ、ここまで来たのだ。
僕は水浸しの大理石を、一歩、二歩と歩く。
その度にぴちゃん、ぴちゃんと淡い水音が辺りに響き渡る。
スラリ…と薄汚れたマントの中から剣を取出し、刃を逆さに両手で構えた。
天使はぼぅっとした瞳を此方へ向けるだけで、怯えという感情がない。
そんな天使に心の中で苦笑し、表情では柔らかくニッコリと微笑んだ。
「……大丈夫」
僕はポツリと呟き、勢い良く剣を振り落とした。
ガシャーン!!
耳をつんざくような派手な音が響き渡った。
「………」
ガリリ…と地面に刺さった剣を捻った。
チラリと天使に視線を向けると、目を少し見開いて表情が凍り付いていた。
ズソッ…鈍い音を立てながら抜き取った。
「………これで、君は、飛べるかい?」
ブチ切った鎖をじゃらりと蹴散らしながらそう問うと、天使は瞬きをした。
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