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「………と、ぶ…」
「そう、君は天使で、翼がある……君は、飛べる」
僕は手を差し出し、彼女の反応を待った。
パチリパチリ…とゆっくりとした瞬きをしたのち、おずおずと白く、ほっそりとした手で僕の手を握った。
その手をしっかりと握り返し、グイッと引っ張り身体を起こしてやった。
彼女は困ったように瞳を揺らし、瞬きを繰り返す。
僕はニッコリと笑って天井を指した。
崩れて無くなってしまった天井は、月明かりとキラキラと散らばる星屑が一面に広がっていた。
「君は飛べる。だって翼があるのだから」
「………あ、な、た、は…なに、もの…」
「………ただの旅人だよ」
マントが風で揺れた。
目深にまで被ったフードが取れてしまわないように押さえながら、小首を傾げ微笑む。
「さぁ、お行き…君を閉じ込めていた人達は、もういないのだから…」
「……とべ、る?」
「あぁ…あとは君次第だ…君は、飛びたいかい?」
彼女は不安気に瞳を揺らし、口許に手を当てた。
視線を彷徨わせ、足元に広がる水を軽く足で掻いた。
「この、みず、あなた…?」
僕は曖昧に微笑み、何も言わなかった。
彼女は目を細め、一つ掬うとコクりと嚥下した。
口の端から零れた水は滑らかな頬を下り、首許までいき、服を濡らす。
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